リヴォフの地下水道

旅行記や本のレビューや歴史など。知識ひけらかす雑談とか。ロシア・ウクライナの文化愛してる。星井美希トナカイ担当P。

日本人には難しい摩訶不思議なロシア人の名前

さて、今日はヨーロッパの旅行記から一旦筆休め的に趣向を変えて、世にも奇妙なロシア人の名前についてお話ししていきたいと思う。

 

ロシア人の名前ってほんと奇妙なの。。。でも調べれば調べるほどに面白い。

世間的には〜スキーとか、〜ヴィチ、〜コフを名前の語尾につけりゃそれでロシア人っぽくなるだろう、それでいいだろ、とかいう適当な思い込みがあるが、全然良くない。ロシア人を侮辱するな。

ロシア人の名前はそんな単純な話でもないんだぜ〜。

そもそも女性形か男性形かによっても変わってくるというのは声を大にして言いたいところ。

それよりもっと日本人に馴染みのない風習が、いわゆる父称という習慣だ。

 

ロシア人で一体、みなさんは誰を最初に思い浮かべるだろうか。プーチン大統領

俺は真っ先にプーチンを思い浮かべてしまうのだが。

 

ではさっそく、そんな彼の本名を例にして根掘り葉掘り考察してみよう。

彼の本名はウラジーミル・プーチン

世間的にはこれで終わりといきたいところだが、ここでロシア人の名前の一番の特徴である”父称”なるものを挟み込んでみる。

まぁミドルネームというやつだ。すると、

 

ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン

こうなる。

 

父称というのは何か?それは父親の名前からもらった名前、ということさ。

つまり、ウラジーミロヴィチ=ウラジーミルの息子という意味がある。

 

プーチン一族の、ウラジーミルの息子の、ウラジーミル

というのが、簡単に言えばプーチン大統領の本名の意味だ。

名前の語源はヴラディ(支配せよ)+ミール(世界、平和)=ウラジーミルなんですけど、それは本件とは関係ない物騒な話なのでまた別の機会に

 

だからロシア人の名前ってのは、つまり、名前+父称+姓で構成されるのだ。

せめてこれだけは覚えて帰っていただきたい。 

あれだよ、すげえわかりやすく言えば

山田太郎くんのお父さんが山田小次郎だった場合、山田太郎の本名は、タロウ・コジローヴィチ・ヤマダンスキーになるわけよ。

 

そんな奴はいない。

 

冗談はさておきプーチンという姓はロシアでは珍しく、一説によればかつて帝政ロシアを牛耳り崩壊に導いたとされる妖僧ラスプーチンからきている、とも言われている。

ロマノフ王朝が崩壊した遠因にもなったわけだから、ラスプーチンという姓は縁起が悪いとされた。

そこでラスを取り除き、プーチンだけが残った、という具合だ。

まぁラスを除いたところで結局ラスプーチンと同じように、彼が良くも悪くも現代ロシアに絶大な影響力を持っているのはとても不思議なことですがね。

 

ちなみにロシアで一番多い姓がスミルノフ(1.8%)だそうな。

語源はロシア語の形容詞・スミルヌィ(温和な、従順な)という意味。

ロシア人が穏やかなもんか。

確かにそのご指摘、ごもっともです。

他にもイヴァノフ(イワンの息子)だったり、クズネツォフ(鍛冶屋)だったりが多い姓らしい。

 

もちろんプーチン大統領のようにウラジーミルの息子のウラジーミルがいるんだから、あのでかいロシアやウクライナベラルーシには、イワンの息子のイワンだって存在するのだ。

 

その場合、イヴァン・イヴァノーヴィチになる。

さて、そんな彼の姓をイワノフにしてみよう。

するとイヴァン・イヴァノーヴィチ・イヴァノフとなる。

 

日本語にすると、

イワンの子孫の、イワンの息子の、イワン。

 

つまり、イワン・イワン・イワン。

 

ゴリラの学名みたいだ。

ロシア全土にお住いのイヴァン・イヴァノーヴィチ・イヴァノフさんに大変失礼だが日本人からすれば本当に奇妙な名前。

かの有名な文豪ゴーゴリの著作にも、そんな奇妙な”イワンの息子のイワン”をネタにした本があるのでそちらも是非参考にされたし。

 

本来は姓そのものに”〜の息子”という意味が入っていたのが、それは16世紀、ロシアの歴史がまだ始まって間もない頃。その時代の名前というのはイヴァン・イヴァノフ(イワンの息子のイワン)と表記するのが一般的だった。だから父称はこの時点ではまだ存在していない。

他にもピョートルの息子って意味のある”ペトロフ”という名字もある。

イワン・ペトロフ(ピョートルの息子のイワン)というロシア人もその頃から存在していたってわけだ。

しかし親から子へ、孫へと世代が進むにつれて本来”〜の息子”という意味のあったペトロフやイワノフ、他にもマカロフ(マカルの息子)などの姓が、

もう今の父親の名前はアレクセイとかミハイルだとか、全然違う名前なのに、

それらが本来の意味を成さずに姓として使われ続ける、という事態が発生してしまう。

つまり、こんな会話が生まれるってわけだ。

 

「やあ、僕の名前はピョートル・ペトロフ

「ということは君のお父さんの名前も、ピョートル?」

「はあ、何言ってんだいアホ、僕のパパはセルゲイだ。ピョートルなんて顔すら知らねえぜ、先祖にいたかもしれねえけど」

 

ロシア人は父親の名前をどうしても息子の名前の中に残したかったんでしょうね。

そこでロシア人は姓とは別に、ご丁寧に父称なんてものを作ってしまうわけです。

 

なので名字がペトロフ(ピョートルの息子)なんだけど、セルゲイの息子と名乗りたくてセルゲーヴィチっていう父称が生まれたわけだ。

 

じゃあ、〜の娘と言いたい場合は?

当然、あるわけです。

近年ノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチさんのお名前が微妙にややこしく、いい例なので取り上げることにしよう。

ややこしいのは彼女の姓が〜ヴィチで終わっていること。

だが一般的にロシア人女性の父称が男性名詞の〜ヴィチで終わることは有り得ない。

〜ヴナで終わることが一般的なのだ。

 

スヴェトラーナさんの本名は、スヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ・アレクシェーヴィチ。

アレクシェーヴィチって父称なんかじゃなくて、れっきとした姓なんだよね。。。

ややこしいね。〜ヴィチで終わる姓ってベラルーシ人には比較的多いのですよ。

多分この場合は”アレクセイの息子”という原初の父称の名残なのかもしれませんね。ペトロフやマカロフなんかと一緒です。だからこの方の姓の場合は、”アレクセイの子孫の”という日本語訳が適当な気がします。

つまりスヴェトラーナさんの父親はアレクサンドル、ということが彼女の名前から伺えますね。

 

最近やけに脚光を浴びているロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ2世(本名・ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ロマノフ)の末娘アナスタシアですが、

彼女の本名はアナスタシア・ニコラエヴナ(ニコライの娘)・ロマノヴァ

 

おや…?

みなさんお気づきかもしれないが姓の語尾も女性と男性では変わってきます。

 

簡単に例で表すと、

 

〜スキーで終わる姓は、〜スカヤ

〜ノフで終わる姓は、〜ノヴァ

〜コフで終わる姓は、〜コワ(コヴァ)

〜エフで終わる姓は、〜エワ(エヴァ

〜ニンで終わる姓は、〜ニナ

 

とかとか。

他にもあるかもしれないが。とりあえず女性形のAとかYaを語尾につけりゃいい。

しかし中性名詞の〜チェンコ、〜ネンコ(ウクライナ人に多い)は男女で変化しない。

 

まぁ、つまりチャイコフスキーの娘はチャイコフスカヤになるってわけですよ(適当)。

 

書いてる自分でも何を書いているのか何を言っているのかマジでわからん。。。疲れた。。。頭が混乱してきたし、読んでいるみなさんも頭が混乱してきたかと思うのでこの辺にしておこう。

これ書いてるのは全部早朝のテンションです。

これだけ分かってくれればロシア人的には十分。

お読み頂いて誠にありがとうございます。

 

◆総括◆

 

例題)

ワレリエフ家にようこそ。

父親はミハイル、妻のナタリア、その娘のソフィア、息子のアレクサンドル。

おじいちゃんはイリヤ(父方)。もう一人のおじいちゃんはイワン(母方)。

さあこの場合の4人(父、母、息子、娘)の、それぞれの本名はどうなるでしょうか。

 

解)

父→ミハイル・イリーイチ・ワレリエフ

妻→ナタリア・イヴァノーヴナ・ワレリエワ

娘→ソフィア・ミハイロヴナ・ワレリエワ

息子→アレクサンドル・ミハイローヴィチ・ワレリエフ

 

(※イリーイチは中性名詞の父称なので、仮に母親の父親(おじいちゃん)がイリヤであった場合でも、母親の名前はナタリア・イリーイチ・ワレリエワになる)

 

上記の問題をマスターすれば君も立派なロシア通だ。

ちなみに名前+姓で呼ぶより、名前+父称で呼ぶとなんだかよりお上品な呼び方になりますわよ。おほほ。

帝政ロシアの時代には上流階級の家でよくそんな風に呼んでいたらしい。

 

まあ現代じゃ仲の良い相手のことは大体愛称で呼ぶので、この呼び方はそこまで一般的ではない(ナジェージダならナージャ、アナスタシアならアーニャとかさ…)。

でも男同士だったら仕事仲間、同僚のことを名前+父称で呼ぶことが現代ロシアじゃよくあったりする。

ロシア人が出てくる映画で、ロシア語に耳を澄ましてると相手のことを確かに名前+父称で呼んでいても、日本語の字幕ではしか表記されていない、なんてのはよくある話。

だってミハイル・セルゲーエヴィチとかより”ゴルバチョフ”の方がしっくりくるでしょ、日本人にとって。

 

なあピョートル・イヴァノーヴィチ、今日の仕事はどうだった?」

「最悪だったぜ、アレクセイ・イヴァノーヴィチ。工場が丸焼けになっちまってよぉ…ソ連製マッチは燃えないってもっぱらの噂なのに案外よく燃えたんだ…自分でもたまげたぜ。おかげで俺は最初当局に破壊工作の疑いをかけられちまってな、「まぁ、質が悪いはずのソ連製マッチがよく燃えるという宣伝になってよかったじゃないか」と言ったら頷かれて、なぜか釈放されて」

「よく逮捕されなかったなぁ」

「で、あとで仲間に聞いたら結局倉庫にあったのは全部スウェーデンから密輸したマッチだった、というオチ」

(二人、爆笑)

「ところで意識したことなかったが、お前の父さんと俺の父さんの名前、一緒なんだなぁ」

「おっと…聞いて驚くな、それだけじゃないさ、俺の名字も実はイワノフさ」

「!?何…!?驚いたな、俺の名字もだ…!」

 

ってな光景もソ連時代にはあったんでしょうかねえ。知りませんけど。

 

それでは今日の話はこれで。

完全に余談です。

それじゃあ、この辺でバイバイ